0012-ライフガード(死の目前の話4/4)「テリトリー外」(思いだせ!実はそこにいるのだ!)

「ライフガード(死の目前の話)」シリーズとしては最後の話です。

ここまで書いた通り、私の日常(小さなビーチのライフガード)は突発的な事故・事件が無い限りは平穏で、毎日沖へ泳いで行っては太陽の日差しと穏やかな波の音を独り占めして幸せを感じる毎日でした。

空手でいうと「茶帯」な頃

毎日死ぬ直前まで行われる特訓のおかげで泳ぎも冒頭よりかなり上手くなりました。

泳ぐコツをつかんだおかげもあるし、それと同時に自分の身体を鏡で見ると一カ月間の特訓で明らかに胸や腕に今までと違う筋肉がついて体型が変わっていたので筋力的な理由も大きいでしょう。

もはやライフチューブさえ持っていればどこまで泳いでも怖くないという感覚にすらなっていました。

ライフガード時の画像
当時の写真。2人だけで仕事してた記憶しか残ってないんだけどなぜか4人います。私は記憶が映画「memento」なのでもしかしたら4人体制だったのか?水泳訓練のおかげで身体がたくましくなってる。

ただし何事もちょっと上達した頃が一番危ないのです。

例えば、空手を習っている人が白帯から黒帯(有段者)に至るまでに一番強い(危ない)のは茶帯(黒帯の一歩手前)の時とも言われます。

弱かった人間が少しばかり強くなって気持ちが大きくなり、イキがってケンカとかを一番しやすい時期だそうで、ケンカ相手だけでなく自分自身も中途半端な突きや蹴りで骨折したり怪我をしたりしやすいそうです。

(※事実、私は昔ほんの一時期だけ空手を習った時があり、まさしく茶帯の時に同じ練習生とふざけた組手ごっこをしていて、お互いの足同士を蹴りあってしまって足の指を骨折した事があります。)

そしてこの夏の終わりごろの私も泳ぎが少しばかり上手くなって、自分の泳ぎに過信して少し危ない時だったと思います。

毎日沖に出て泳いでいるうちに「遠くに行きたい」という気持ちがどんどんと強くなり、毎日「より遠くへ」「より限界の彼方へ」チャレンジしてみたいと思うようになっていました。

最果てから手招きする誘惑

ある日、双眼鏡を覗いていると沖のはるか遠くで何かがキラキラと光っているのに気が付きました。

肉眼では存在もわからない位の遠くで、ライフガードが仕事で使う程の高性能な双眼鏡で見てもそれが何か全くわからず、ただ白っぽい物体が太陽の光でキラキラ反射する事で「何かがそこにいる」というのが辛うじて分かる位の遠い場所です。

遥か沖で光るものの画像

私は正直言ってそれは多分お客が流してしまったビーチボールか浮輪の類いに違いないだろうと思っていたのですが、万が一それが人であれば大変ですし、まあ本当はそれを口実にしてそこまで泳ぎに行ってみたいと思ったのですが、バディ(※)にその旨を伝えてロングボードに乗って確認に向かいました。

(※『バディ』(=buddy):『相棒』の事。ライフガードでは二人一組で仕事をすることが多くて相棒の事をバディと呼んでいました)

 

結構遠い場所まで往復する事になるので長い時間ビーチを不在にすることとなるから、厳密に言うと命を預かる仕事で職場放棄してるという最低な行為といっても良いです。

でも当時の私は未確認の物体の調査にかこつけて、はるか遠方への素敵な一人旅を満喫しに出かけたのでした。

行きのイメージ画像
「沖は楽しいな」絵日記風

 

ロングボードとは本当に大きくて浮力も抜群だし、縦に長いから進む方向性もしっかりしています。

一掻きでスイーッと進む心地よさは抜群で、クロールで進む為の肩の筋肉さえあればカヤックとかカヌーに乗って遊んでる位の気分で楽しいのです。

ロングボード参照用画像
ロングボードの大きさ 参照用画像(※ネット上の画像を借用したので一部加工しています)

 

そして延々とロングボードで泳いで遥か彼方の沖へとやってきました。

降り注ぐ太陽と冷たくて気持ち良い水とさわやかな風だけに囲まれて、街の人工音が一切聞こえず耳に入るのはチャポンチャポンと小さく波が跳ねる音と、わずかな風の音そして遠くに鳥の声がたまに聞こえるのみ。

脳みそからα(アルファ)派が出まくりの「癒し空間」です。

レスキューチューブで沖へ出て浮かんでいた際も同じような状況を楽しんでいたのですが、その時はそれでも遥か遠くの浜辺の方から「子供のはしゃぐ声」とか「乗り物の音」とかが小~~~さく聞こえて来るくらいの距離感でした。

レスキューチューブ画像
毎度おなじみのレスキューキューブ。これがあると安心だけどロングボードは船の様な推進力もあるので更に安心で楽しい!

でも今回はとんでもなく遠くまで、近くに大きな船とかが通るような遠方まで来たので街の音などは一切届かないですし、もう海の色とか海水温度とかが全然違います。

海は果てしなく深くて黒く、水温も寒い位に冷たくなっていました。

「通りゃんせ 通りゃんせ」

もはやどちらが浜なのか?見渡す限り360度まわりが全て海水な状態となってましたが、当時の私はその状況を「まるで自分だけの独自の世界を手に入れた王様」みたいな気分で嬉しく楽しく感じていました。

さて、ようやく例の光る物体ももうすぐ近くです。

「どうせ浮輪か何か」だと思っていたそれは近づいてみると思ったより複雑な形状で、色も単に白いだけではなく薄汚れていてどうも人工物ではないようでした。

しばらく何だかわからずに近寄ってよ~~く観察してみると・・・・・・

 

それは逆さまにひっくり返った状態の『大きな亀の死骸』でした!

海亀の死体の画像
まさか陸カメじゃないはずだから足がヒレのはずなんですよねぇ・・・。でも記憶では確かに絵の通りなのですよ。ここでも映画「mement」炸裂なのか?そうなると自分が不安でたまらんです!

私の今の記憶に残っている映像では上の図の通り、海面から2本か4本の陸ガメっぽい足が飛び出していたのですが、そんなに大きな陸ガメの死体が海に浮かんでいる可能性は少ないと思うので、そうすると海ガメの「ヒレ状の足」だったっけな???ってなるんですが・・・そこらへんは私自身にとっても謎でして、ショックというか恐怖で少し記憶が混乱して後から組み替えられているのかもしれません。

いずれにせよ、絵で描くと少しかわいらしいですが、実際には非常に細部まで生々しくて、その気持ち悪い死骸を見た瞬間に私の中のあるボタンが押されてしまったのです。

今の今まで「素敵な海」と思って自分が広い海を独占する王様気分でいたのに、実はこの真っ黒い海水の中には、目の前の死骸のような大きな海の生物達がウヨウヨと泳いでいて、単に直接見えていないだけなんだ!という事を思いだすボタンです。

瞬間で体中に鳥肌が立ち、恐怖で泣きたくなります。

その途端に沖にいるのが怖くなり即行でビーチに戻りたくなって、全力で来た方向へと泳ぎだしました。

でも、その時点では黒い海水の中には得体のしれない魚類がウヨウヨしているイメージが頭を占めてしまって、腕や足ですら海水に入れるのが気持ち悪いというか怖くなって全然ちゃんと泳げないのです。

このシリーズでお馴染みの「パニック状態」です。

沖から帰りの画像
「沖は怖いな」絵日記風

 

この先はここまで書いてきた事と同様です。(笑)

泳げど泳げど空回りするだけで全然進まないし、その事が更に焦らせてパニックを助長して更に前に進まなくなるという悪循環で、

「このまま流されて死んでしまう!?」

という焦りと

「手足に何か大きな巨大生物がヌルッと触れるんじゃないか!?」

という気持ち悪さで錯乱していました。

こうやって書いてみると本当にアホみたいだと我ながら思うのですが、その時はマジで怖くて仕方ないんですよね。

とりあえず最終的にはかなりの時間をかけて無事に(ギリギリで)浜までたどり着いたのですが・・・シリーズ通して心から伝えられる事は、泳ぐ際にはパニックに気をつけるべし!って事ですかね。

何事も慢心はいかんという事です。

 

 

0012-ライフガード(死の目前の話4)「テリトリー外」(思いだせ!実はそこにいるのだ!):終